電柱、電線、ネオン、原色の看板といった神田駅前周辺はは、典型的な、日本の繁華街の風景です。
そこから一本入った、日の当たらない、薄暗い通りの一角にある狭い土地に姉妹が小さな珈琲店を開きたいという依頼がありました。
建物は、コンクリート打放し、3階建てのビル。ワンフロアの床面積が4坪というとても小さいものでした。
自焙煎機を設置するという絶対条件を、ワンフロア約4坪という極狭の建物で成立させるために、1階は焙煎機、キッチン、カウンターのみとし、テイクアウトを中心とした珈琲店として計画しました。
自分たちのもてる自家焙煎の技術で、美味しい珈琲を淹れ、お客様に提供する、という姉妹のシンプルな姿勢を汲んで店構えの要素もできるだけシンプルなものに仕立てました。
真っ白な暖簾とカウンターは、密集した街の中の余白の部分として計画しました。
コーヒーを求めるお客さんが、これらの真っ白なキャンバスの間に挟まれ、一つの絵となります。
カウンター天板のエッジに象嵌した真鍮の無垢角棒と溶融亜鉛メッキ鋼板の目隠しという異種の金属の素材感が、絵に光を与えます。
建物の外には、T字路にあわせて直角に3枚、各々10cmだけ突き出た金色の板をつけました。この真鍮鏡面仕上のステンレス鋼板である金色の板は、太陽光や周辺の明かりを反射し、見る時間によって表情を変えていきます。それは普段無意識に感じている「神田」の街の風景を、光の反射を通して豊かな価値のある風景に変換していきます。姉妹が焙煎する珈琲豆が、その香りで通りがかる人々の時間を豊かにしていくように。
また、コーヒーを買った人たちが季節のいい時期は外で楽しめるように、小さなカウンターも設けました。
この珈琲店が神田の街角を行く人々のちょっとした交差点になることを願っています。